一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2010
06/21
仕事人インタビュー

[サトシンさんインタビュー 8] 「ソング絵本」はいかにして生まれたか

今回は「みんなのうた」デビューが決まったサトシンさんのもうひとつの取り組みである「ソング絵本」(第1弾「うんこの大冒険」「わたしはあかねこ」は大好評絶賛発売中)についての話をお届けします。

その7から続く

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ソング絵本誕生秘話
──じゃあ次に「ソング絵本」についてお話をおうかがいしたいのですが。今年の2月、この連載の続きの前に、「番外編緊急インタビュー」としてすでに「ソング絵本」については語っていただいているのですが、ここで最初から詳しく語ってください。

サトシン はい。「絵もなければ文章もないけど、これも絵本だよ」っていうのが「おてて絵本」でしょ。それと基本的には同じベクトルなんだけど、対極的なこともできるのかなあと漠然と思ったことがあってね。

──つまりその対極的なことってのが「歌」だと?

サトシン 慌てない慌てない。あのね、そもそもの部分から話すと、もう何度も繰り返して言っちゃうけど、お話ってのは人間にとって非常に大切なものだと思ってるんですよ。純粋に楽しくて、聞くことで想像力を養え、それが先もわからない明日を切り開く活力になるわけだから。にも関わらず、そんなお話をするおじいちゃん、おばあちゃんはいなくなり、本も売れない時代になり、お話に触れる機会はどんどん少なくなってる。それに伴い、お話の効力もどんどん弱くなっているっていうのが今の状況ですよね。

──それは確かに。

サトシン そんな中で、僕は表現としておもしろいから絵本も作るけど、絵本の中だけで頑張っていても、やっぱりお話っていいよねと思われるようなうねりをつくるとか、子供たちの想像力を劇的に刺激していくといった、お話の力を世の中に再生させることは絶対にできないだろうなって思ったんですね。

──ふむふむ。

サトシン で、そういうお話がもつ楽しさや力をいろんな人に感じてもらうための間口を広げるようなことができるといいなと考え始めたんです。

──サトシンさんが創ってる絵本ってまさにそのためのひとつのツールですよね。

サトシン それはそう。だけどね、絵本って企画やお話を考えて、それに絵をつけて表現する媒体じゃないですか。その絵をメロディに置き換えてみてはどうだろう?と考えたのがそもそもの出発点だったんです。

「お話」にとことんこだわる

──要するに歌ってことですよね。

サトシン そう。歌なんだけど、普通の歌じゃなくて、歌詞を聴くとお話が頭の中でビジュアルとして鮮明に浮かんでくるような歌。それはもしかすると絵本以上に想像力を刺激しながら楽しめるものになり、絵本とは違うところでお話の能力を再生できるのかなと思ったんですよ。

──なるほど。絵がないからこそ想像力がより刺激される...。いろいろ考えますねえ。でも、そのお話的な歌って世の中にないわけじゃないですよね。「およげたいやきくん」とか「山口さんちのツトムくん」とか。あと「桃太郎」や「浦島太郎」とかも。

サトシン 確かに。ただ、僕が思ってるのはそれらとはちょっと違うんですよね。というのは、「およげたいやきくん」はあんなにヒットしたけど、歌とお話に分解して、純粋にお話としておもしろいかというとそうでもないんですよね。それどころか、「どんな話だったっけ?」って思い出せない人もいるくらい。ほかのお話的な歌も確かにお話のロジックにはなってるけれど、別にそんなにおもしろくないんでしょ。

──確かに。「およげたいやきくん」なんて話としては悲惨ですよね。せっかく逃げて楽しい毎日を送ってたのに、最後は釣り上げられて食われちゃうという話ですもんね。

サトシン ディティールの話はおいといて(笑)、どうして既存のそういう歌がおもしろくないかわかる? 

──いや、全然わかりません。

サトシン 歌を作る過程で、歌詞として便宜的にお話的なものを作ってるだけだから。言い方を変えると、まずお話のプロットを考えて、精度を高めて作っていくというやり方で作られてないからなんじゃないかなと。

──なるほど。

サトシン で、僕が思ったのは、その作詞を考える前に、お話をきちんと考えてみようと。つまり、お話を歌詞に落とし込むというのかな。その上でそれにふさわしい曲を作る。だから通常の歌を作るときよりも1工程多いわけ。だけど、そうするとお話の楽しさをちゃんと考えられて、最終的に作話・作詞・作曲と3つのユニットの中で検証できてまた精度が高まると。そういうふうな考え方で作るお話的な歌ってのは、今までのそれと同じようで違うんじゃないかなと。でも頭の中で考えてるだけではしょうがないので、作ってみようかと思い立ったのが2008年の10月頃ですね。


大人でも楽しめる曲を

──曲に関して何かこうしたいと思ってたことってありますか?

サトシン 子供にとっての歌といったら、まずは「童謡」でしょう。童謡って子供にはすごく大事なものって理解できるし、だから聞かせてあげたいとも思うけれど、それを聞かせてるとき、大人って退屈だったりしません? 子供は楽しいかもしんないけど、聞かせる大人はコーヒーを飲みながらぼけーっとしたりとか、なんか違うことを考えたりとかしてるじゃないですか。僕はそうだったんだけど。

──あ〜確かに。聞いててもつまんないですしね。

サトシン でしょ! でしょ! もしその歌が大人も楽しめるような、音楽としても魅力的でお話としてもおもしろいものだったらどうかな。子供と一緒に聞きながら、物語や想像の世界を一緒に楽しんだり、それがきっかけで会話が豊かになったり。そういった、子供との時間やコミュニケーションを豊かにするものであれば、これまでにない、全く新しい歌になるかなと。そういうものを作ってみたいと思い始めたんですよね。

──なるほど。それが「ソング絵本」の出発点だったんですね。

サトシン そうそう。これがゆくゆくはロックやニューミュージック、演歌などと肩を並べるような新しいひとつの音楽ジャンルとして広がっていけばいいなと。また、その可能性は十分にあると思っているわけです。それが新しい表現の可能性を切り開くことでもあり、お話の魅力の再生に繋がることでもあると。歌から興味をもってくれた人が絵本に行く、またその逆といった双方向・相乗効果の可能性もあるだろうし、「お話」という点でいろんな人に響くということになればいいなと思ったんですね。

そう考えると、作詞も作曲も、童謡作家に頼むんじゃないだろうと。そういうことができるのは、オリコンチャートに入るようなヒットソングを作れるような人だろうと。そういうポピュラーソングを作るプロ中のプロが本気で大人と子供の両方が楽しめる歌を作ることができれば今までにない新しいジャンルを創りだせるだろうと。

──だけどなかなかそういう人と知り合って、さらに依頼して請けてくれることって難しいことのように思うのですが。

サトシン そうなんだよね。だから「ソング絵本」みたいなものを作りたいとは思いつつも、けっこう悶々としていた時期もあったんだよね。だけど、先のことはわかんないからといって何もしないのはもったいないからまず作っちゃおうと。

──そこがさすがです(笑)。一発目の「ソング絵本」の構想ってどんな感じで始まったんですか?

サトシン 最初のきっかけは、「おてて絵本」の活動をするようになった頃かな。講演やワークショップでいろんなところを回るようになって気づいたことがあってね...

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次回からはいかにして「ソング絵本」を売り込み、ビッグネームを巻き込んでいったのかについて語っていただきます。乞う、ご期待。



●バックナンバー
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回
第7回

[番外編]
緊急うんこ!インタビュー [前編]
緊急うんこ!インタビュー [後編]
「ソング絵本」に関する緊急インタビュー

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 ●サトシンさんプロフィール
サトシン(本名:佐藤伸)1962年新潟県出身。三児の父親。元コピーライター。
広告としての受賞歴:「日本新聞協会 新聞社企画部門 新聞広告賞(新潟日報社)」「新潟広告賞グランプリ(第四銀行)」「新潟広告賞大賞(北陸国道協議会)」ほか。
2006年12月、すずき出版より「おったまげたと ごさくどん」(サトシン/作 たごもりのりこ/絵)を出版し、以降、本格的に作家活動に突入。
2007年4月、「おてて絵本普及協会」設立。新しい親子遊び「おてて絵本」の普及とこどもたちの「おてて絵本」ストーリーの採取・紹介に力を入れている。
2009年12月に出版した「うんこ!」がただいま絶好調増刷中。


●公式サイト→絵本作家サトシンのHP
●サトシンさんが立ち上げたおてて絵本普及協会



●絶賛増刷中の






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