一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2018
12/23
日記 仕事人インタビュー

【エール vol.8】支援者インタビュー:とちぎユースアフターケア協同組合インタビュー

先日発行された、「NPO法人フェアスタートサポート」発行の情報誌『エール』第8号で2つ記事を執筆・撮影しました。NPO法人フェアスタートサポート」とは、児童養護施設等の入所者・退所者を専門に就労支援を行っている団体で、『エール』とは、社会的養護等から巣立った若者たちのインタビューなどを集めた冊子です。

今回取材させていただいたのは、とちぎユースアフターケア事業協同組合とフェアスタート社員の青山さん。そのうちの「とちぎユースアフターケア事業協同組合」の取り組み事例をNPO法人 フェアスタートサポートととちぎユースアフターケア協同組合の許可を得て転載させていただきます。


子どものアフターケアにすべての関係施設・団体が一丸となって取り組む全国初の団体

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とちぎユースアフターケア事業協同組合
2013年7月事業開始。児童養護施設などを退所した児童などの社会的自立を支援している。現在は13法人、16施設等で組合を組織している。
〒320-0043栃木県宇都宮市桜5丁目1-18柿沼ビル501
【TEL&FAX】028-680-4686


 社会的養護を必要とする子どもたちが施設等を出た後、どう自立をサポートするかは重要な社会的課題だ。しかし、どの施設も人手不足など問題が山積みで、うまく機能しているとはとても言えない。そんな中、栃木県内の児童養護施設、自立援助ホーム、里親など、民間の社会的養護に関係する施設・団体が一体となって子どものアフターケアに取り組んでいる団体がある。その名は「とちぎユースアフターケア事業協同組合」。このように、民間団体が協同組合を組み、県の全施設等が一丸となって子どものアフターケアに取り組んでいる組織は全国的にも非常に希少で貴重な存在だ。今回はこの組合の職員の方々に事業内容や組織の存在価値、アフターケアに対する思いなどを語っていただいた。


<座談会出席者>
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田村 隆さん(とちぎユースアフターケア事業協同組合 事務局長)


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相樂 知世さん(相談支援員)


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伏木 須巳江さん(常駐キャリアカウンセラー【株式会社ワークエントリー】


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石田 昌義さん(常駐キャリアカウンセラー【株式会社ワークエントリー】


設立の経緯

―― とちぎユースアフターケア事業協同組合が設立された経緯を教えてください。

田村 子どもが施設を退所した後のアフターケアは、法律上では児童養護施設が実施するように位置づけられているのですが、どの都道府県の施設も入所児童への支援が手一杯で、アフターケアまでは手が回らないのが現状です。そうした中、栃木県では、篤志家から御寄付をいただいたことから、知事がアフターケアの充実を目指すとともに、県議会で社会的養護の子どもたちへの支援を重要な議題としてとりあげるなど、アフターケアの機運が高まる追い風が吹きました。

 先進的な取り組みを行っていた千葉県を視察するなど、栃木県としてどのようにアフターケアを充実すべきか、検討を重ねました。その結果、県内のすべての社会的養護に関係する施設・団体が一致団結してオール栃木で、社会的養護の子どもたちのアフターケア事業に取り組んで行こうということになりました。それで2013年7月に、栃木県内にある11カ所すべての児童養護施設、4カ所の自立援助ホーム、一般財団法人栃木県里親連合会を組合員として、「とちぎユースアフターケア事業協同組合(以下、組合)」が設立されたのです。このような、すべての社会的養護に関する施設・団体を全県一区でアフターケアに取り組んでいるのは栃木県だけの特徴だと思います。

―― 具体的な活動内容は?

田村 大きく5つあります。まず1つ目が、「退所児童等へ生活上及び就業上の相談支援に関する事業」です。退所児童からの生活・就業上の相談に応じて、関係機関との連携や社会資源の活用を図りながら適切な援助活動を行います。現在、キャリアカウンセラーが組合事務所に常駐して、履歴書の書き方・面接練習・適職診断などの就労の相談に丁寧に対応しています。

 2つ目が「組合員の施設から退所を控えた児童の支援事業」です。3月で高校を卒業した子どもに、いきなり「さあ自立です、これからは何でも自分でやらなければいけません」と言っても、すんなりできるわけがありません。そこで、施設や里親の元を巣立つ時期が近づいている児童、主に高校生を対象にして、社会生活を始める上で必要な知識や社会常識等を教えています。具体的には各種専門家などが、社会で役立つ法律知識や行政的な手続き、ビジネスマナー、テーブルマナー、料理の仕方、金銭管理の仕方などを教える「自立支援プログラム研修会」を実施しています。

 3つ目が、「施設退所児童等の自助グループの育成支援に関する事業」です。施設退所児童が孤立しないように、意見交換や情報交換を行うための自助グループ活動を支援しています。ハイキングやバーベキューなどの交流会を行うとともに、昨年度から「若者のためのサロン」を開設しています。施設退所児童が社会的自立を目指すには、当事者同士の支え合いや大人との関係構築が必要です。そこで、当事者の居場所を目的としてこの事務所で月2回、仕事や学校帰りの18?21時頃まで、参加費200円で夕食会を行っています。職員手作りの料理を子どもたちと一緒に食べながらいろいろな話をします。

 4つ目が「生活資金等貸付事業」です。当協同組合の組合員が退所児童等に生活資金等の貸付を行う際、必要な資金を組合員に貸し付けます。小口生活資金5万円、アパートを借りるための住宅確保資金15万円、運転免許や資格取得のための資金25万円を無利子で貸し付けています。概ね25歳までを対象としています。

 5つ目が「退所児童等大学等進学応援事業」です。保護者等からの支援が困難な児童が大学等に進学した場合、入学一時金30万円と、月額奨学金3万円、又は家賃助成のいずれかについて、最大1年間の給付を行います。
 また、「自立支援貸付事業」(社会福祉法人桔梗寮が県から受託)の担当職員が常駐しており、円滑に本事業を利用できるよう、協力を行っています。

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―― まさに施設退所後、生活や就職などいろんな悩みを抱えていても、ここに来れば様々な相談に応じてくれるということなんですね。

田村 その通りです。それが当組合の最大の特徴で、オール栃木で一丸となって子どものアフターケアに取り組む方がスケールメリットが大きいのです。アフターケアは退所した子どものためのものですが、各施設だけのアフターケアでは不十分です。もちろん、子どもにとっては自分が過ごした施設が実家のようなものなので、退所した後は施設の職員に相談に行くのは当たり前です。しかし、先程話した通り、施設の職員は今入所している子どものケアで手一杯なので、施設以外の大人も支援できた方がいい。でも退所した子に突然「これからは組合の職員が相談に乗ってくれるから何でも相談しなさい」と言っても、組合を全然知らない子どもにはなかなか難しい。
 この問題を解決するため、施設入所中の子どもたちと組合の職員が顔見知りとなって、退所後も相談しやすい関係性を作れるように、ボーリング大会などのイベントや法律関係のことを学ぶ自立支援プログラム研修会を開催しているわけです。これが「リービングケアからアフターケアへの切れ目のない支援」となるのです。それを実現するためには研修・イベントの充実など、いかに子どもたちを参加させるかが重要です。

―― 子どもたちの参加状況は?

田村 おかげさまで昨年度の子どもたちの参加率は非常に高く、6回のプログラムと3回の先輩との懇談会は一昨年の1・3倍、人数としては約470人で100人以上プラスとなりました。

就労支援活動

―― 就労支援に関する活動内容は?

伏木 キャリアカウンセリング、適職診断、求人情報の提供・協力企業等への紹介、企業へのマッチングの働きかけ、見学や体験などをお願いしています。また、先程田村さんの話に出た自立支援プログラム研修会で、参加した子どもたちに、ビジネスマナーをはじめ、女子には身支度やビジネスメイクを教えたり、男子はネクタイの縛り方やアイロンのかけ方などを教えたりもしています。

―― 具体的な事例を教えてください。

伏木 県立高校3年の児童で、就活時期に障害者手帳が発行されたケースがありました。このケースは、学校、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、児童相談所、施設、組合が連携をし、卒業・退所までを目標に、数回ケースカンファレンスを開き、施設退所後は自立援助ホームを利用し、そこから通える会社に無事就職できました。そして、20歳になり、自立援助ホームを出なければならなくなった時には各機関の連携が整っていたのでスムーズに本人が希望する居住先の支援センターに繋がり、退所後の就労先も決定できました。各機関の連携があったので、進められたと思います。

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田村 今は売り手市場なので、就職率も高く、児童養護施設を退所する時の1回目の就職は学校と施設が連携してうまくできます。ところが定着率が低いため、離職した時は学校や施設の手を離れているので誰かが支援する必要があります。

――「相談支援員」の相樂さんは?

相樂 基本的には子どもたちからの様々な生活相談に応じています。また、自立支援プログラムの企画や、原則月1回の実務担当者会議のまとめなどをしています。児童養護施設で生活している子どもたちは、施設にいる間はさまざまな面から支援をしてくれる職員の方たちが周りにいて、毎日帰って来られる場所があるからいいのですが、退所して1人になった時が一番危険です。頼れる人が少ない中で、初めて孤独を感じるわけです。その時に子どもに声を掛けられる人、子どもが相談できる人がいるのといないのとでは違いがあります。その役割を担うのが相談支援員だと考えています。

支援ポリシー

―― 皆さんが子どもを支援する際に大切にしていることは。

伏木 仕事選びでは、給料や休日の多い求人を優先したため、ミスマッチの企業を選択してしまい、就職後に数か月で辞めてしまったり、メンタルが疲れてしまうケースもあります。生きていくために、お金は必要ですが、なるべく一人ひとりの適性に合った企業に「正規雇用」で就職させたいという思いで支援しています。

石田 押し付けや強制ではなく、子どもに寄り添い、後ろから見守ってバックアップするように心掛けています。?他人の風?とでも言うんでしょうか、友人や関係者にはなかなか相談しにくいことでも、深い間柄ではない第三者の関係で繋がると本人も話しやすいことも多々あります。何気ない会話の中で、「いつでも後ろについているよ。何でも相談してね」という感じで接していると、子どもも安心して素直に相談しやすくなると思います。子ども一人ひとり、みんなにそれぞれの大事な人生があります。自分を大切にして生きていってほしい、その願いをいろいろな形でサポートにつなげたいと思っています。

相樂 相談に来る子どもとはゼロから信頼関係を作っていかなければならないので、まずは子どもの心に寄り添って、相手の話を聞いてあげることを心掛けています。時には厳しいことを言わなければならないこともありますが、信頼関係の構築具合やタイミング、言い方などに細心の注意を払うようにしています。また、極力関係を切らさないように、こちらからこまめに連絡しています。

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田村 当組合のパンフレットにも「自立への一歩のために」と書いてあるのですが、自立と言葉で言うのは簡単ですが、実際にやるのはとても難しい。そもそも自立とは何か、どうなれば自立になるのか、自立するためにはどういう支援を行えばいいのかなどに対する唯一の答えなどはないと思います。自立のためには、自分ですべて解決できる力を養うのではなく、何か困った時、誰かに相談したり、励ましてもらいながら、自己選択・自己決定していく力を身につけることが必要なのだと思います。それは我々も同じ。例えば社会的養護の子どもを1人の支援者が生活にせよ就労にせよ全部パッケージで支援することは不可能です。相談に来る人は、成人も多いので、孤立させないで最終的に自立を目指さなければなりません。それはとても一朝一夕にはできません。膨大な時間もかかるし、1人で支援するのは無理です。だから支援者みんなが力を合わせて、支援者自身も孤立しないよう関係機関が連携し、役割分担することが大事です。そして、子どもが相談しやすい環境を整えて、自立への一歩を踏み出せるように、伴走しながら生活、就労などを支援することを心掛けています。
 例えば当組合で実施しているお金の貸付や給付も単なる財政支援ではありません。これを通して子どもが施設や私たちに相談できる一つのきっかけにもなっています。困っている人に魚をあげても助かるのはせいぜい1日ですが、釣り方を教えれば一生食べていけます。それをみんなで一緒に考えて、実行するということが大事です。

―― 今後フェアスタートをどのように活用していきたいですか?

田村 永岡さんと知り合ったのは去年なので、協働するのはこれからです。アフターケアを実施する際に様々な課題があるので、いろいろと有益な情報を共有化できればと思っています。
伏木 永岡さんがこれまで実施してきたイベントや子どもたちが求めていることなどを情報交換したいです。永岡さんは子どもたちにお兄さんのように慕われているので、特に心の面で求めるものを教えてほしいですね。

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『エール』はフェアスタートの賛助会員になればゲットできるので、児童養護施設等出身の若者を支援したいというお気持ちのある方はぜひ検討してみてください。

今回も原稿・撮影料はフェアスタートサポートさんや取材させていただいた方に寄付いたします。

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