一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2018
12/23
日記 仕事人インタビュー

【エール vol.8】若者インタビュー:青山なつみさんインタビュー

先日発行された、「NPO法人フェアスタートサポート」発行の情報誌『エール』第8号で2つ記事を執筆・撮影しました。NPO法人フェアスタートサポートとは、児童養護施設等の入所者・退所者を専門に就労支援を行っている団体で、『エール』とは、社会的養護等から巣立った若者たちのインタビューなどを集めた冊子です。

今回取材させていただいたのは、とちぎユースアフターケア事業協同組合とフェアスタート社員の青山なつみさん。基本的に『エール』はフェアスタートの賛助会員か児童養護施設など、社会的養護に関わる施設の方しか読むことはできませんが、今回は青山さんの記事をNPO法人フェアスタートサポートと青山さんの許可を得て転載させていただきます。

児童養護施設等出身の若者を支援したいというお気持ちのある方はぜひフェアスタートの賛助会員になってください。
●NPO法人フェアスタートサポート→http://fair-start.co.jp/

(今回も原稿・撮影料はフェアスタートサポートさんや取材させていただいた方に寄付いたします)

●青山なつみさんインタビュー
今度は私が困っている若者をサポートする番
誰でもいいから頼れる人を作ってほしい

IMG_9018_R2.jpg
<プロフィール>
■青山 なつみ(旧姓:平沼)
■株式会社フェアスタート/NPO法人フェアスタートサポート 正規職員
 (営業・コーディネーター)
1994年、神奈川県川崎市生まれ。5歳の時に両親が離婚。父方の祖父母、父、妹、弟との生活に。中1の時に父が家を出る。以来、祖父母が親代わりとなって育ててくれた。高校は市内の公立高校に通い、ファミレスでアルバイトしながら生活費やバスケ部の部費を稼ぐ。卒業後は語学の専門学校に入学するも経済的な問題、勉学とバイトとの両立が難しく1年で中退。以降、3年間のアルバイト生活を経て2016年11月、フェアスタートに入社。2018年3月結婚。


■フェアスタートでの仕事
―― 現在のフェアスタートでの仕事内容について教えてください。

 フェアスタートは株式会社とNPO法人の2つの法人を持っています。株式会社の方では主に代表の永岡と一緒に企業を訪問して求人のお話をする、いわゆる営業の仕事をしています。また、求人サイトに掲載するコンテンツ制作のため、企業に赴いて社長や人事部の採用担当者にインタビューをしたりと、外に出ていることが多いです。社内にいる時は対応窓口として、企業からの問い合わせメールの対応や、企業の求人内容をパソコンに打ち込んだりしています。

 NPOの方ではコーディネーターとして、近々児童養護施設などを出る親を頼れない若者が就職する際の相談に乗っています。まず、施設から「就職をしたい若者がいるのですが相談に乗っていただけますか?」という問い合わせが来ます。そこから事務所で面談・職業適性検査・会社見学の同行・インターンシップなどの対応をしています。また、施設の職員さんたちが集まる勉強会等に参加して団体の広報をしたりこれまで就職の応援をした若者たちのその後の状況を聞いたりしています。

―― サポートの対象は?

 児童養護施設やシェルターで暮らしている、高校を卒業するタイミングの子が多いです。最近は里親の子も増えてきました。いずれにせよこれから1人で生きていかなければならない10代後半から20代前半の若者たちです。

―― かなり仕事が多いんですね。勤務形態は?

 確かにやることは盛りだくさんですがそんなに大変だとは感じていません。正社員として、月曜日から金曜日までは9時から18時まで勤務していますが、時期によっては残業する時もあります。休みは毎週土日と祝日です。体調が悪い時などは自宅勤務もOK。携帯電話とPCさえあればどこでも仕事ができるので。

■時間を忘れるほど楽しい仕事
― 実際にフェアスタートで働いてみてどうですか?

 勤務して約2年ですが、代表が自由にやらせてくれるのでとても快適に働けています。仕事自体も楽しくて時間を気にせず働いていたら、気付いたら2年も経っていました。仕事で嫌だと思う部分が少ないです。だから忙しい時や難しいこともたくさんありますが、それを乗り越えた時の達成感があるので続けられます。

―― 仕事をする上で心掛けている点は?

 あまり話すのが得意じゃない子もいて、どうしたら私と話してくれるだろうと常に考えています。例えばその子の好きなことに関する話を存分にしてもらい、私も好きになれる様に質問をします。そうしたら「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれる人」と思って話しやすくなります。絶対に否定からは入らないように心掛けています。


■若者の就労支援に大きなやりがい

―― 仕事の喜び、やりがいはどんなところにありますか?

 
IMG_9034_R.JPG
一番のやりがいは、若者が就職して安定的な収入を得られるようになり、日々頑張って働いている姿を
見ら
れることです。私たちの仕事は就職させて終わりではなく、その後のフォローも同じくらい重要なので、就職後も「最近どう?」と連絡したり、バー
ベキュー大会やクリスマス会等のイベントを企画して繋がりを切らさないようにしています。また、若者の方から悩み相談の連絡が来た時は、一緒にご飯を食べながら人間関係の悩みや仕事の愚痴などを聞きます。私も就職する時にものすごく困ったので、その経験を活かすことができるのは大きなやりがいです。以前の自分は本当にやりたいことがわからず迷走していました。いろんな仕事を経験して、最終的に辿り着いたのが私と似た境遇の子の支援なので、今はとても充実して仕事ができています。

■5歳の時に両親が離婚。祖父母に預けられる

―― では、ここからはフェアスタートに就職するまでの経緯について教えてください。子ども時代は?

 私が5歳の時に両親が離婚し、妹(2歳)、弟(乳児)とともに父方の祖父母に引き取られました。祖父母に引き取られて行く時に、車の中から見た母の姿を鮮明に覚えています。

―― お父さんや祖父母との暮らしはどうだったのですか?

 すごく楽しかったです。祖父が長距離トラックの運転手で、朝から晩まで働いていたのですが、忙しい中、毎年夏に海や、山、キャンプ、休日には遊園地などに連れて行ってくれましたから。祖母もちゃんと私たちの生活の世話をしてくれていました。でも私が中学1年生の時、父と祖父が私たちの教育を巡って衝突し、父が家を出ていってしまいました。以来、祖父母が親代わりとなって育ててくれました。

■不満もストレスもゼロ

―― その後の暮らしは?

IMG_9071_R.JPG
 何の不満もストレスもなかったです。やりたいことをやっていいと言ってくれたので、お金がかかるのに中学・高校と大好きなバスケットボール部に入れてもらい、塾にも通わせてもらっていました。

―― ご両親がいないことに関しては寂しさや不満は?

 やっぱり授業参観やバスケの試合の時など、他の子は普通に親が観に来ていたので、そういう光景を見て私も両親がいたら...という寂しさを感じていました。祖父は仕事、祖母は幼い妹弟の面倒を見なければならないのでなかなか来られなかったです。でも、そう思っていたのは小学生までで、中学以降は部活で忙しくなったし、長女だからしっかりしなきゃという思いが強くなりました。

―― 高校時代は?

 川崎市内の公立高校に通い、引き続きバスケ部で活動していました。部活で必要な練習着や遠征の費用はファミリーレストランでアルバイトをして稼いでいました。
 高校卒業が間近に迫った頃、里親や親族里親の子どもたちを支援している「キーアセット」というNPOの職員さんに、「就職支援をやっている団体と合同で交流会をやるから参加しない?」と誘われ参加しました。その団体こそがフェアスタートでした。

■語学の専門学校に入学も1年で中退

―― 卒業後の進路は?

 最初は大学か専門学校に進学したいと考えていました。大学は4年間で学費も高いし、20歳以降は就職していたいと思っていたので、専門学校に行くことに。友達に誘われて語学の専門学校の説明会に行った時、職員さんに英語を習っておけば社会に出てから何かと有利になるとすごく勧められて、外資系の会社にも就職できるかもしれないと思ったので、AO入試で高3の6月に入学を決めました。今思えばもっときちんと考えておけばよかったのですが、学費を稼ぐために早くバイトをしなくてはと思っていたので、他の専門学校を見ずに決めてしまったんですよね......(笑)。

―― 学生生活はどうでしたか?

 とにかくまともに寝る暇がないほど忙しかったです。奨学金を借りたのですが全然足りなかったので学費と生活費を捻出する為にアルバイトをしていました。でも自宅から学校まで遠く、バイト代の半分くらいは定期代で消えてしまいます。遅くまでバイトをせざるをえなかったので勉強の時間がなかなか取れません。だいたいバイトから帰宅するのが22時。それから深夜1時まで勉強。朝6時に家を出ないと間に合わないので、睡眠時間は数時間でした。

 奨学金も2年間借りたらかなりの額になります。就活が始まったらバイトなんてできないですし、2年次には海外研修で50万円もの費用がかかります。このままでは奨学金を返済するのも難しいとわかったので、借金が少ないうちに進路を変えた方がいいと思い、2014年3月、ちょうど1年が終わった時に専門学校を中退しました。

■フリーター生活に突入

―― その時、相談できる人はいなかったのですか?
IMG_9114_R.JPG
 18歳を超えていたので児童相談所の職員さんにも話せず、祖父母にはお金のことで心配を掛けたくなかった。だから専門学校を中退して就職するかフリーターになるか、相談できる人がいなくてすごく困りました。でもその時、キーアセットの存在を思い出し相談したところ、フェアスタートに繋げてもらって永岡さんと再会し、今後のことを色々と相談に乗ってもらってすごく助かりました。

 取りあえずお金を稼がなければならなかったので、フリーターを選択。2014年4月からスポーツ関連グッズの制作・販売を手掛ける外資系の会社で1年間アルバイトすることに。でも社風や社員さんたちと合わず、さらに途中で実家から通えない場所に移転したので、1年ほど働いて辞めました。

―― 次の職場は?

 2015年4月から、渋谷のカフェ&ダイニングでホールとドリンク作りのアルバイトを始めました。前職のスキルが活かせるのは飲食しかなかったのと、勤務先は渋谷で外国人客が多いから英語が使えると思ったからです。この職場は同じバイト仲間に大学生が多くて、入って1年が経つ頃にはみんな就活を始めました。私はこのままフリーターでもいいかなと思っていましたが、周りが急に正社員を目指して頑張りだしたのを間近で見て、私も危機意識をもち、就職活動を始めました。

 でも、そもそも就活のやり方がわからなかったので苦労しました。面接でも大学生はいろんな質問にも即座に答えられて自己PRも論理的にスラスラと話せていました。私は専門学校中退で、どういう話をすればいいのか分からなくて、面接も5分くらいで終わっていました。

 21歳の時に、中退した専門学校からの手紙で就職合同説明会に参加して3社に面接に行きました。そのうちの一社は最終面接まで残ったのですが「これまで育ててくれた祖父母がもし倒れたら駆けつけて病院に連れて行ってあげたいので、休む事は可能ですか?」と聞いたら、「仕事はそれほど甘くない。IT業界は残業が普通だ。」と返されて、結局不採用になりました。この時、自分が育った家庭環境がハンデになっていると感じました。

■フェアスタートに入社

―― 青山さん自身のせいではないのにつらいですよね。それからどうしたのですか?

 もう、どうすればいいのかわからなくて困り果てている時に、永岡さんから連絡が来ました。「大丈夫?悩んでいるなら相談に乗るよ」と。この時は天の助けだと思って、後日永岡さんに相談しに行きました。

 その後、永岡さんに会社を紹介してもらい、渋谷の飲食店を辞めて2016年10月に保険会社に営業職として入社しました。ようやく正社員になれたのですが、期待やプレッシャーに負けて体調を崩し、1ヶ月で辞めてしまいました。

 その後、永岡さんからフェアスタートで働かないかという話をいただき、2016年11月に入社したというわけです。

―― これまでの経験の中で、今の仕事に活かされているという点はありますか?

 カフェでアルバイトをしていた時、相手の気持ちを考えながら接客していたので、コミュニケーション能力やお客さんが何を求めているかを察知する能力などが磨かれ、それが今、施設を出る若者や職員さんと話をする時に活かされていると思います。

―― 育ててくれたお祖父さん、お祖母さんにはどのような思いをもっていますか?

 今まで元気だった祖父母が歳を取り、体力的にも経済的にも年々厳しくなっている様子を見ると、私たちが小さい頃、すごく頑張って育ててくれていたのだと、今、改めて感謝と尊敬の念でいっぱいです。自分が大人になったからこそ、その時の大変さがよくわかります。今、妹弟3人で考えているのがディズニーランドに連れて行ってあげること。これからできる限り恩返しをしたいと思っています。

―― ご両親に対しては?

 母に対しては、子供の頃はなぜ私たちと一緒にいてくれなかったのかとか、私たちを捨てた親なんて絶対頼らないという思いの方が強くて。でも大人になった今は18歳で私たちを産んで育てるのが難しかったのはわかる、いろんな苦労や思いがあったのだろうなと。恨みという意味では自分自身のことよりも、どうして妹がグレなくてはいけなかったのかとか、なぜ弟がこんな寂しい思いをしなくてはならなかったのか、という思いの方が強いです。それに、祖父母も私たちを育てなくてはいけないという状況にならなければ、もっと自分たちの人生を謳歌できたのではないかと思っています。

 父に対しては、私たちが成人するまでどうして責任持って育ててくれなかったのだろうという気持ちもありますが、私たちも無事に成人したので第二の人生を頑張って歩んでほしいという気持ちです。

■頼れる人を作ってほしい

―― 自身の経験から、施設や里親から巣立つ若者に、どのような就労支援が必要だと思いますか?

IMG_9043_R.JPG
 困難な状況にあって、誰かに頼りたくても頼る先がないという若者がいると思います。そういう若者と早く出会い、話を聞いてあげることがまず重要だと思います。永岡さんが私を見つけて声を掛けてくれたように。フェアスタートがなければ私はいまだにフリーターのままかもしれません。

―― これから社会へ出る後輩の社会的養護や定時制高校の出身者へ伝えたいことは?

 自分のこれからの人生のために、常に一緒にいなくてもいいので、困った時に相談できる人、頼れる人を作ってほしいです。中には小言を言われるから面倒くさいと思う人もいるかもしれませんが、小言を言ってくれるのは心配してくれている証拠です。

 あと仕事って生きていくために一番必要なことです。今は簡単で楽な仕事をしたいと思う人も居ると思いますが、この世に楽な仕事なんてなくて、特に始めたばかりの頃は絶対苦労するし理不尽なこと、嫌なこともたくさんある。それを経験した上でやっと楽に変わっていく。そういうことを若者には伝えたいです。

――今後の目標は?

 フェアスタートの活動をもっと多くの人に知ってもらうこと。そのためにいろんな施設に訪問し、会合・イベントにも出席しています。まだわからないことも多いので、いろんな人の話を聞いて、いろんな人からアドバイスをいただきたいです。そして、この仕事をできる限り長く続けたいです。

------------------------------------

青山さんは、家庭環境が一因となり就職に困りましたが、フェアスタートに出会ったことで、やりがいのある仕事に就くことができ、幸せな人生を送っています。仕事で人生はがらっと変わります。本当にフェアスタートに出会えてよかったし、これからはサポートする側として頑張ってほしいです。






コメントする

このサイトを検索

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のコメント

最近のトラックバック

RSSフィード

ご連絡はこちら

このサイトに関するお問い合わせや、インタビュー・執筆・編集のご依頼は

 

takezo@interviewer69.com

 

までお気軽にご連絡ください。