一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2010
06/10
日記

【感想メモ ※ネタバレあり】創プレゼンツ アカデミー賞映画「ザ・コーヴ」上映とシンポジウムに行ってきた

今日は月刊「創」プレゼンツ 「アカデミー賞映画「ザ・コーヴ」上映とシンポジウム」に行ってきました。

以下、忘れないうちに感想メモ。

最初この映画の話を聞いたときは正直「ケッ」という感じでした。よくある欧米人が鯨漁をもって日本人バッシングするという構図。その延長線上にある、かしこくて愛らしいイルカを虐殺する日本人はこんなに残酷で野蛮で悪い人種なんですよということを世界に向けて発信するためのプロパガンダ映画なんだろうと思ってました。

もっと正直にいえば、日本の伝統文化であるイルカ漁について、毛...いや欧米人にとやかくいわれたくないと。

おまえらがしてきたことを振り返ってみろと。おまえらどんだけの野生生物を絶滅に追いやってきたのかと。そんなおまえらに鯨漁とかイルカ漁についてとやかくいわれたくないと。なんで牛や豚はよくてイルカはダメなんだと。マジいい加減にしろと。

しかし一方で、俺はイルカ漁について諸手を挙げて大賛成というわけでもないんです。俺はダイビングをやるので、正直イルカは大好きです。イルカラブですよ。野生のイルカと一緒に泳いだときの感動は体験した者じゃないとわからないと思います。

イルカ漁はコーブの舞台となった和歌山の太地だけではなく、伊豆でも行われています。よくダイビングに行く富戸でも伝統的にイルカ漁が行われていることは知っていました。

とはいえ、漁は仕事であり、生活の糧。遊びでイルカラブ〜とかいってる俺のような人間が、とやかく言えるものではない。

というわけで、そもそもイルカ漁については、イルカは大好きだけど、イルカ漁反対とは絶対にいえないし、いうべきでもない、さらに毛唐...いや欧米人なんかには絶対に言われたくないというアンビバレンツな感情を抱いていたわけです。


だけど、どんなにいけすかねえ映画だと思っていても、実際に観てみないことには批評・批判のしようがありません。というわけで、これは観ないといけないなと思っていたところ、3日前くらいにTLにこのイベント情報が流れてきて、早速前売りチケットを買いにローソンへ走ったというわけです。

いや、実際、すぐにローソンに走って大正解でした。まだこのときは買えたのですが、すぐにチケットは売り切れだったらしいっす。

そして、イベント当日の今日もどうせならいい席で観たいと40分前に会場の中野ZEROホールに着いたのですが、着いてびっくり。会場にたどり着く前に長蛇の列。前の人がチケットを持ってたのでとりあえず並んでいると、メディア関係者の列だということがわかり、反対側に行くとさらに超絶長蛇の列。しかも2列になっているではありませんか。よくよく聞くと、前売りチケットを買っている人と買っていない人で列が分かれていると。で、チケットを買っている人の列へ行くとまたさらに長蛇の列。どんだけ人気やねんこのイベント!まさかこんなに関心が高いとは...。これ、どう考えて全員は入れないよなあ、つうか小ホールだから立ち見かも、でもそれはそれでしょうがないと覚悟を決めて、『なぜ日本人は「戦争」を選んだか』を華麗に取り出し、読み始める俺。こんなこともあろうかと持ってきててよかった。

その後も続々と伸びる列。これは前売りチケット買ってない人はダメかもわからんねと思ってたらやっぱチケット買ってなかった100人くらいの人はそのままお帰りにならざるを得なかったらしい。

......ああ、またしてもいつものクセで思い出し実況モードに入ってしまい、話が横道にそれまくってもーた。本筋の「ザ・コーブ」はどうだったか。

結論から言うと(もう遅いが)、観に行ってよかった! すげーおもしろかった! ドキュメンタリー映画としてはすごくよくできた映画だったというのが率直な感想。恐ろしく脚本がよく練られている。ドキュメンタリーに脚本とか台本とかあんの?とかいう人はまさかいないと思うけど、ちゃんとある。ドキュメンタリーにも「演出」ってある。

その脚本、演出がとてもクオリティが高い。ということは、エンターテインメント作品としてもとてもよくできているということ。とにかく飽きさせない。自己満足で創られたドキュメンタリーって退屈でつまんないものが多い。そうでなくても中だるみがある。しかし、「ザ・コーブ」はそれが全くない。寝不足で行ったにも関わらず、全然眠くならず、最初から最後まで画面に釘付けだった。

編集のうまさもあるが、実際、よくぞこのシーンを撮ったと、映像にうなる場面...いや、このシーンを撮るために、ここまでやるかという感動もあった。

主演のリックさんが元々加害者側(と自分では思っている)で、その罪滅ぼしのために今イルカの解放活動をしているというストーリーも説得力もある。

とにかくよくできた映画だと思った。

ここまでは「映画」という枠組みの問題。では手法・内容はどうか。ここが微妙なところ。

ネタバレになるからあまりいえないんだけど、ひとつは盗撮という問題がある。映画のキモとなる部分は盗撮によって撮影されている。ここをどうとらえるか。「殺しの入り江」を見せない漁師側が悪いのか、無理矢理撮る制作者側が悪いのか...。しかし、このシーンがないとこの映画は成立しない。そんなとき、自分だったらどうするか。おそらく盗撮という手を使っても撮るだろう。ある人からは狂信的だといわれても、それが正義だと思うなら。

もうひとつ、よろしくないと思ったのが、漁師たちの言い分が全く出てこないこと。ココが森達也さんのドキュメンタリー作品と決定的に違うところ。バランスが悪い。顔にモザイクかかってるし、あれでは完全に犯罪者、悪者扱いだ。映画を見た欧米人には日本の漁師はさぞかし野蛮で悪人に映るだろう。

あと個人的にかわいそうだなと思ったのが水産庁の役人。顔出し全開でまぬけな役人に仕立てられているが、彼は自分の仕事をまっとうしようとしているにすぎないのかも。個人としての見解は違うかもしれない。もしかしたら、イルカが超好きでイルカ漁には反対なのかもしれないし。


もしこの映画を日本人が撮ったらとか、なんで日本人にこういう映画が撮れないのかとか、なんでそもそも日本ではこういうことが報道されてないのかとか他にも思うところはいろいろあった。

ああいった生活から遠く離れた俺たちはあの行為を見て、なんて太地の漁師は残酷なんだと思うけど、あれがその土地で連綿と受け継がれてきた漁なのだとしたら...。彼らにとっては、イワシやサンマを獲る漁となんら変わりがないのだとしたら...。漁という観点から考えて、イワシやサンマはよくてイルカはなんでダメなのかその説明が俺にはできない。

でも映画の中で、保護団体がイルカ漁の儲けと同じ金額を払うからイルカを殺すのをやめてくれと頼んだところ、漁師はそれを拒んだんだが、それには疑問を感じた。

てな感じで内容に関してはいろいろと疑問があるんだが、最大の疑問は、「年間2万3000頭ものイルカを殺す必要が本当にあるのか」ということに尽きる。

ただ、イルカが殺されるシーンは目を覆いたくなるほどショッキングで、文字通り血の海となるわけだが、「イルカかわいそう!」という感情に流されてしまっては本質が見えなくなると思われるのでそこには注意したい。

あ、もうひとつ大事なことが。どういう人がこの映画の上映を妨害しているのかわかりませんが、ほんとにナンセンスだと思う。観て、そして議論すべき。ダメならダメな理由をちゃんと主張すべき。映画館の自主規制も悲しい。まあ気持ちは分かるけど。篠田さんの言うとおり、劇場、頑張れ! 俺は「ザ・コーブ」を上映する劇場を応援します! この映画は老若男女、右も左も、すべての日本人に観てほしいと思うので。



コメント(1)

ここにもまた代表的ミスリードに嵌る人
国が許可してる最大頭数が2万3千
太地は近隣と合わせて2千3百
日本一でもない

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