一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2017
06/22
仕事人インタビュー

【エール vol.6 若者インタビュー】好きな仕事ならきつくても頑張れる! 施設を出る前にやりたいことを見つけよう

※この記事は「NPO法人 フェアスタートサポート」発行の『エール』第6号に書いた記事をNPO法人フェアスタートサポート、H・T君本人など関係者のみなさんの許可を得て転載させていただいています。

●若者インタビュー 
好きな仕事ならきつくても頑張れる!
設を出る前にやりたいことを見つけよう

H・Tくん(20)
横浜市出身。2歳から6歳、小学2年生から高校卒業まで神奈川県の児童養護施設で過ごす。2015年4月、高校卒業と同時に建設会社に入社。大工として日々研鑽を積み重ねている。


自分の本当の家だと思っている

――施設時代の話を教えてください。

 2歳の時に横浜にある児童養護施設に入りました。小学生になる前に一度実家に戻ったのですが、母と姉の暴力がひどくて2年生の時に同じ施設に戻り、以来高校卒業までその施設で暮らしました。

――施設時代はどうでしたか?

 園長先生以下、職員の人がみんなやさしくていい人ばかりだったし、子どもたちとも仲が良かったので、すごく楽しかったですよ。
 職員の人から怒られた記憶も少ないし、いい思い出しかないんですよね。これまで生きてきた時間のほとんどを施設で過ごしているので、今では本当の自分の家のように思っているんです。これまで実家に帰りたいと思ったことは一度もありません。もう絶対に帰りたくない。実家のことは忘れたいくらいです。

 僕が2歳の時からずっと面倒を見てくれたIさんという職員さんが僕にとっては母であり父なんですよ。将来、僕が結婚する時は、両親として、Iさんに出席をお願いするつもりです。そのIさんのお子さんとも仲良くさせてもらっていて、本当の姉、兄のように慕っています。

卒業しても施設でイベントがある時にはできるだけ行くようにしてます。行くと喜んでくれる人たちがたくさんいますので。施設の方からも次はいつ来るのとか、逆に自分からいつ行ってもいいとか連絡するときもあります。

――施設時代、印象に残っている思い出は?

 招待されて行ったプロ野球やサッカーの試合観戦や米軍基地での催しなど、1つひとつのイベントが小さなことでも全部楽しかったです。

 特に印象に残ってる思い出といえばスキーですかね。毎年、みんなで白馬に2泊3日で行ってたんですよ。僕はスキーがすごく好きだったので毎年楽しみにしてました。今でも好きで、友達や施設の職員、子ども達と行ったりします。

高校卒業後、建設会社に入社

――フェアスタートとの出会いは?

 フェアスタートと接点ができたのは、施設にいた中学生の頃です。フェアスタート主催の会社見学ツアーに参加した時に代表の永岡さんと初めて会って、そこからちょくちょく会うようになりました。

 小さい時から手先が器用で何かを作ることが好きだったので、小学校の頃には大工になって、自分の家を作りたいと思っていました。自分で作れば好きなように作れるし、費用も多少は安く済みますしね。だからその職場体験の時にも「施設を出た後は大工になりたい」と永岡さんに話していました。

 高校3年生の時に永岡さんが主催する企業との交流会に参加し、そこで出会った会社が今、大工として働いている建設会社です。社長に初めて会って話した瞬間、すごく優しくていい人だなと思いました。社長からこの会社で働いている人はみんないい人だと聞いてますます好感をもち、その1ヶ月後に永岡さんと一緒に会社見学に行きました。その時、この会社で働かせてくださいと社長にお願いして、高校に推薦していただき、入社することになったんです。

――就職後はどのようにして大工の仕事を覚えていったのですか?

 高校卒業後は3日間ほど遊んですぐに会社の寮に入って、大工の仕事を始めました。当然最初はわからないので、親方についていろいろと教えてもらいながら仕事を覚えていきました。とはいえ職人の世界なので、手取り足取り教えてくれるということはありません。現場全体を見て、誰がどういう動きをしているかを把握。それぞれ親方の作業を観察し、どのように作っているかを学びます。そして見よう見真似でやってみて、わからないところはその都度「ここはどうやってやるのですか?」と聞きながらやるという感じで1つひとつの作業を覚えていきました。

 いろんな職人が入っている現場の中でも、大工は中心的な立場なので、失敗したら取り返しのつかない大変なことになる恐れがあるんです。だからわからないところは1つひとつちゃんと丁寧に聞くようにしていました。

 指導してくれる師匠は特定の誰かがいるわけではなく、入った当初は4人ほど師匠がいました。日によって師匠が違うのですが、それぞれの師匠の作業を見ながら大工の仕事を覚えていきました。そんな感じで1年ほど修行して、2年目からは1人で現場で作業することが多くなり、でも基本は2人でやらないとできない作業ばかりなので、加工する係と取り付ける係に分かれて作業をしてます。

大工としての日々の生活

――毎日のスケジュールは?

 現在は一応日曜と第1、3土曜日が休みですが、現場が忙しい時は休みが少なくなることもあります。毎年初夏から秋まではかなり忙しくなるので休みは週に1回くらいですね。

 寮の近くの現場だと、6時半に起きて、7時半くらいに家を出て車で現場へ。8時から朝礼開始、ラジオ体操をして8時半から仕事スタート。10時に20分間休憩を取り、その後12時まで仕事。1時間昼食休憩を取り仕事再開。15時に休憩を挟んで17時まで働きます。17時が一応定時ですが、忙しい時は20時とか21時になることも普通にあります。

 現場も基本的には神奈川県内が多いのですが、東京や埼玉まで行くこともあります。埼玉になると起床が朝4時になるのでけっこうきついですね。

 現場はビルやマンション、学校、個人宅までさまざまです。新築よりはリフォームやリノベーションが多いですね。同時期に複数の現場を受け持っていて、例えば先週は月曜がマンション、火曜が小学校の解体、木曜日が一軒家の解体、金・土が小学校の仮設解体と、いろんな現場を回っています。1日の午前と午後で違う現場に行くこともあります。

――具体的な作業は?

ボード張り、窓・ドア枠の取付、フローリング張り、家具の組み立て設置など様々です。クロス張り、電気回り、水回り以外の作業はほぼ全部やります。

――仕事のやりがい、魅力は?

やっぱり自分が関わった仕事が目に見える形になることですね。完成した建物を見るたびに、「俺、これを造ったんだな」と思えるというのはうれしいことですよ。それがどんどん増えるのがまたうれしいですよね。あと、完成した際にお客様の笑顔が見れて、とても嬉しい気持ちになります。

――仕事のつらい点は?

 一番きついのは重い材料を運ぶ仕事ですかね。でも休みながらできるので問題ないです。

 休みがあまりないのも全然大丈夫です。高校時代、サッカーをやってた時は1年の中でも休みなんて数えるほどしかなかったですから。逆に働くようになって、少なくとも日曜は休みと決まっているから楽なんですよ。毎週日曜日は友達と遊ぶ予定を入れていて、その日のために毎日の仕事を頑張っているという感じなんです。

 つらいと言えば、就職して最初の3ヶ月くらいは本当につらかった。お金がなさすぎて。高校時代はサッカーに集中してたのでバイトもできないから、施設を出る時に貯金が全然なかったんです。だから友達とも全然遊べなかったし、ご飯もあまり食べてませんでした。一番切り詰められるのは食費ですからね。就職して最初の1ヶ月は月3万円で生活してました。寮がなかったらかなりヤバかったですね。

 でも、力仕事なのでみるみるうちに痩せてしまい、ある日会長から「痩せすぎだ」と言われてしまいました。「お金がないから食費を節約してるんです」と答えたら、「金ならいくらでも貸してやるからちゃんと食べて仕事しろ」と。それ以来、ご飯をしっかり食べて仕事するようにしました。

 そうこうしている間にお金も貯まってきて、今はお金の心配もなくなりました。忙しくて大変なこともありますが、子どもの頃からなりたかった大工になれたので毎日楽しいですよ。今の会社はみんないい人ばかりだし、大工として成長できるので、これからも長く勤めたいと思っています。

自分の手で自分の家を建てたい

――今後の目標は?

 今は大工としてもっと技術を身に着けて成長したいという気持ちが強いので、仕事に全力で集中してます。そして目標は小学生の時と同じく、自分の手で自分の家を建てること。まだまだ先の話ですけどね。30代後半から40代前半くらいまでには建てたいですね。そのために修行しているんです。

 だから今は特に彼女がほしいとも思わないですね。正直、そんな暇はないんですよ。仕事に必要な身体づくりの為にトレーニングもしなきゃいけないですしね。でも女子とか友達から遊ぼうよとか誘われるとトレーニングより優先になっちゃいますけどね(笑)

――自分の家庭を早く築きたいという思いは?

 施設の職員からは早く結婚して子どもつくれと言われているのですが今は仕事に集中したいので今すぐにというのはないですね。あと5年くらいは大工の修行に集中して、30歳前半までに結婚できればいいかなと。

――施設で生活している後輩たちへのメッセージをお願いします。

 まずは施設を出る前に、自分に合った、やりたい仕事を見つけてほしいですね。やりたい仕事なら多少のつらいことも我慢できますから。でもいくら好きな仕事とはいえ、仕事ばかりの毎日では心が荒んでくるので、仕事のほかに楽しみを見つけること。例えば僕のように毎週日曜日に友達と遊ぶ約束を入れると、そのために頑張ろうと思えます。先に楽しみをつくると毎日の仕事に張りが出るし、仕事にも身が入るからおすすめですよ。

 本当に辞めたいとなった時には一旦誰かに相談してみるのもいいですね。自分にとって信頼できる人にでも。僕も辞めたいとは思ってはないですけど、そういう信頼できる人は沢山います。だから信頼できる人をつくっておくことも大事ですよ。

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※このインタビュー記事(写真入り)が掲載されている情報誌『エールvol.6』はフェアスタートの賛助会員になればゲットできます。児童養護施設等出身の若者の就職支援をしている「フェアスタート」を支援したいというお気持ちのある方はぜひ。

※原稿料はNPO法人フェアスタートサポートや同号で取材させていただいた方に寄付しています。

※エールに記事を書くことになった経緯はこちら


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