一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2015
10/19
仕事人インタビュー

【エール vol.4】自立支援コーディネーター・秋林絵美さんインタビュー

目黒若葉寮 自立支援コーディネーター 秋林絵美さんインタビュー

子どもたちには、適切に
相談できる力を養ってほしいですね

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子どもの自立にとって、何が最も必要なのか。大人はどう関わるべきなのか。今回は進学や就職など、子どもの人生において重要な局面に深く関わり、サポートする自立支援コーディネーターにお話をうかがいました。

あきばやし・えみ
1980年、神奈川県生まれ。2003年明治学院大学社会福祉学部卒業後、目黒若葉寮に就職。入職後8年間、女子のグループホームでケア職員として勤務。2011年出産、育児休暇1年半取得後、2013年4月に本園の自立支援コーディネーターとして職場復帰。現在第2子を妊娠中で10月に2度目の育休を取得予定。

大学4年生の実習で決意

――秋林さんはなぜ児童養護施設の職員になろうと思ったのですか?

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 実は最初から児童養護施設で働きたいと思っていたわけではないんです。大学入学時は児童養護施設についての知識はほとんどありませんでした。ただ、子どもと関わる仕事に就きたいという思いだけはあって、児童相談所や児童館の職員などを選択肢の一つとして考えていました。

 それが変わったのは大学4年生の夏。所属していた社会的養護のゼミの実習で北海道の児童養護施設に1ヶ月間滞在したのですが、そのとき子どもの成長を24時間365日間近で見られるのがすごく魅力的だなと感じました。この経験で将来は児童養護施設の職員になりたいと思い、卒業後、この目黒若葉寮に就職したんです。

――就職してから現在までのキャリアを教えてください。

 目黒若葉寮は本園と4つのグループホームがあるのですが、2003年に就職してから8年間は本園の女子ホームでケア職員として勤務していました。その後2011年に出産して1年半の育児休暇を取得。2013年に復帰以降は自立支援コーディネーターとして働いています。

自立支援コーディネーターとは

――自立支援コーディネーターとはどのような職業なのですか?

 ケア職員は子どもと一緒に遊んだり、勉強を見たり、気持ちを聞いたりと、日々の生活全般のケアを行いますが、自立支援コーディネーターは進学や就職などの節目でケア職員と一緒に相談に乗ったり情報を提供するという仕事なんです。若葉寮には2歳から18歳までの子どもがいますが、主に関わるのは、中学生以上の子ども達です。自分自身の進路に関して早い時期から考えられるようにサポートしています。

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 自立支援コーディネーターはあくまでもケア職員をサポートする立場なので、ケア職員と子どもと私の3人で話します。まず子どもがケア職員に相談して、ケア職員からその話が私に来て、3人で話して対策を練る、という感じですね。

 それから、子どもとの関わり方という点では、ケア職員は日々、子どもと濃密に関わっているので叱ることや注意することも必要になってきますが、自立支援コーディネーターは節目でしか関わらないので子どもを褒めることが中心になります。例えば「○○さん(ケア職員)から聞いてるよ、すごいね、頑張ってるね」と子どもをたくさん褒めて自信をつけさせ、力を伸ばすことを意識しています。また、アフターケアも重要な職務の一つなので、退所後の子どもたちの就労支援も行っています。特に退所後1年くらいはケア職員が頻繁に連絡を取るようにしています。

 日々の業務としては子どもの自立支援系の団体と連携することが多いので、その連絡・調整が多いですね。また、今は中学校3年生以上を対象にした自立に向けた学習会を企画したりもしています。

情報を収集して適切に伝える

――仕事をする上で心がけていることは? 

 子どもたちを、NPO団体や行政など、子どもの自立を支援するためのいろんな社会資源につなげる仕事なので、とにかく情報を収集して適切に子どもに伝えることを心掛けています。子どもにとってすごくいい社会的資源があってもちゃんと説明しないとうまく活用してもらえないので、「これはあなたにこういう意味があって伝えているんだよ」ということもしっかり説明しています。

――フェアスタートをどのように利用し、自立支援に役立てていますか?

 退所した子どもの就職斡旋、高校求人内容の見極め、フェアスタートさん主催の合同企業説明会への参加などですね。子どものアフターケアの就労支援という点で最も活用させていただいています。

 今年から在寮生向けにも、就労支援の話をする機会を設ける予定です。また、フェアスタートさんには子どもに仕事を紹介していただいているので、企業の人事担当者などが施設見学に来られる際に一緒にお越しいただいています。

子どもの自立のために必要なこと

――秋林さんにとって子どもの自立とはどういうことでしょう。

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 自立という意味では、子どもが誰かに相談する力を養えているかということが一番大事だと思っています。つまり、適切に相談できる力を身につけた時、自立したと言えると思っています。例えばお金がなくなって困ったとき、相談しに来てくれたら福祉事務所などにつなぐことができますが、相談しに来られない子はどんどん悪い方向に行ってしまいますから。

 他人に頼らないことが自立ではなく、誰かに頼りつつも自分の生活を組み立てていけることが一番大事だと思うので、誰かに相談できる力を身につけてほしいと願っています。

――そのために必要なことは? 

 中には内気な性格で相談しに来られない子もいます。そういう子の場合は常日頃からいいことでも悪いことでも何でもいいから何かあったらすぐに相談してねと話しています。また、退所した子どもは、こちらに連絡をくれるだけで自立への第一歩だと思っているので、必ず「連絡してきてくれてありがとう」と言って次につなげるようにしています。

 信頼されていないと相談してくれないので、子どもと信頼関係を築くことを自立支援コーディネーターだけではなく、ケア職員含めて全職員が心がけています。

――退所後、連絡が途切れる子もいるのでしょうか?

 確かに徐々に連絡が取れなくなる子もいますが、ごく少数です。若葉寮の場合は在職年数が多いベテランの職員が多いし、職員の入れ替わりがそれほど多くないので、音信不通だった子が突然来た時でも「久しぶりだね」と出迎えることができます。これが若葉寮の強みですね。子どもにとっては知ってる人がいた方がいつでも安心して帰ってこられますからね。

重要な局面で子どもと関わることができる仕事

――仕事のやりがいはどんなところにありますか?

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 進学、就職といった子どもの人生にとってすごく重要な局面で濃密に関わることができるということが一番のやりがいですね。子どもとのやりとりを通して徐々に信頼関係が築け、些細なことでも電話をかけてきてくれるようになるとすごくうれしいです。

 また、ケア職員と一緒に考えて、いろんな有益な情報を提供してその子を支援してくれる人や団体を1つでも増やせたとき、この仕事をしていてよかったと感じます。

 あと、子どもに提供した情報や助言がその時は受け入れられなくても、時間が経ってから役に立つときもあります。やってきたことが継続性をもって実っていくのもうれしいですね。ですからその時、その子が拒否的な状況であってもすべての情報を伝えた上で、「今はあなたにマッチしないものかもしれないけど、いずれ活用できるかもしれないから今伝えているんだよ。その上で選択してね」と言っています。一番恐いのが子どもから「あのとき言ってくれればよかったのに」と言われることなので、そうならないように気をつけています。

――秋林さんは産休・育休を経ながら10年以上勤務を続けており、今年の10月から第2子の出産で2度目の産休に入るそうですね。仕事と家庭の両立のポイントは?

 自立支援コーディネーターは基本的に9時から17時までの勤務なので、夜勤もあるケア職員に比べると仕事と育児の両立はしやすいと思います。そういう環境にいられることに感謝しています。また、夫も家事・育児を手伝ってくれていることも大きいですね。

2度目の産休から復帰したい

――今後の目標は。

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 まずは今年の10月の育休からもう一度職場に復帰することが最大の目標です。そのときには自立支援コーディネーターではなく、ケア職員に戻る可能性もあります。そうなったときに職務を全うできるかという不安はありますが、この2年半で視野も広がったし、社会資源についての知識や関係者のネットワークは広がったので、自立支援コーディネーターとしての経験は必ず活かせると思っています。

――一般の人たちに伝えたいことは。

 社会的養護を必要とする子どもたちにとって生きやすい社会を作るために、とにかく児童養護施設のことを知ってもらいたいと思います。児童養護施設について誤解している人やメディアからの間違った情報をそのまま鵜呑みにしている人も多いので、できれば自分の目や耳を使って正しく知ってほしいですね。そのために、目黒若葉寮ではオープンハウスを実施していて月に3回見学者を受け入れています。興味のある方はぜひ参加していただきたいですね。

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会福祉法人愛隣会 児童養護施設 目黒若葉寮
1947年、戦災孤児の受け入れを目的として開園した長い歴史をもつ児童養護施設。現在本園と4カ所のグループホームで2歳から18歳までの計46名の子どもたちが生活している。「出会いと支え合いを大事にし、人と社会をつなぐ」を基本理念に、子どもたちの権利を守り、安心・安全で快適な生活ができる環境を作り、健やかな日々を過ごせるように、一人ひとりの子どもと向き合っている。各施設間の連携、交流が密に行われているのでどの施設に行っても気軽に話ができる環境という点が強み。また、退所後に自立して生活できるように支援を行うと同時に子どもたちを末永く大切に見守っている。地域に開かれた施設を目指し、児童養護施設に関心のある人、就職を考えている人、若葉寮でボランティアをしたい人などを対象に毎月3回(平日夜・金曜昼・土曜午後)オープンハウスを開催している
〒153-0044
東京都目黒区大橋2-19-1
TEL: 03-3466-0261


※この記事は「NPO法人 フェアスタートサポート」発行の『エール』第4号に書いた記事をNPOフェアスタートサポート、秋林絵美さん、目黒若葉寮など関係者のみなさんの許可を得て転載しているものです。ありがとうございます。

※エールに記事を書くことになった経緯はこちら


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