一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2019
10/29
仕事人インタビュー

【エール vol.9】支援者座談会:京都中小企業家同友会×京都府立桃山学園

先日発行された、「フェアスタート」発行の情報誌『エール』第9号で、2つ記事を執筆・撮影しました。

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フェアスタートとは、児童養護施設等の入所者・退所者を専門に就労支援を行っている会社で、『エール』とは施設を巣立った若者たちの生き様や、彼ら・彼女らを支援する人々の取り組みを紹介している冊子です。

基本的に『エール』はフェアスタートの賛助会員か児童養護施設など、社会的養護に関わる施設の方しか読むことはできませんが、一人でも多くの人に施設を出て社会で頑張っている若者や支援している人たちのことを知っていただきたいという思いから、取材させていただいた皆さんとフェアスタートの許可を得て僕が担当した記事を転載します。許可いただいた関係者の皆さん、ありがとうございます。

今回はまず「京都中小企業家同友会の会員と桃山学園の職員との対談記事をお送りします。

※エールを購読したい方はこちら

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●京都中小企業家同友会×桃山学園
"三方よし"の就労体験実習
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京都中小企業家同友会は児童養護施設や里親家庭と連携し、子どもたちの自立支援の一環として就労体験の機会を提供してきた。7年前、ほんの小さなきっかけから始まったこの活動は今や大手マスコミによって全国規模で報じられるほど大きくなっている。その軌跡と関係者の活動にかける思い、参加した子どもの変化などを聞いた。

【座談会参加者プロフィール】
前川 順さん
婚礼貸衣裳業、写真撮影を生業とする「ジュンブライダル」代表。京都中小企業家同友会ソーシャルインクルージョン委員会 社会的養護部会副部会長 兼 対外外活動担当。就労体験実習活動の発起人。

中澤 愛美さん
グラフィックデザインを手がける「CG&CRAFTまあ工房」代表。京都中小企業家同友会ソーシャルインクルージョン委員会。
社会的養護部会副部会長兼桃山学園担当。子どもとのヒアリング、実習先のアテンドや協力金の収集など事務的な折衝を担当。

西山 達二さん
京都府立桃山学園児童養護施設職員。就労体験実習担当。


子どもはいろいろな大人と交流ができ、世界が広がる

就労体験の活動内容

―― 就労体験実習の活動内容について教えてください。

前川 順さん(以下、前川) 2012年から毎年、桃山学園で暮らしている子どもたちに、京都中小企業家同友会(以下、同友会)に加盟している会社で仕事を体験してもらっています。実習期間は、夏休みと春休みの年2回、3から5日間。対象は小学生高学年から高校生までで、小学生は1日、多くても2、3人を1グループとして、施設の職員が付き添って仕事を見学。中学生以上は1人で希望する会社に入って仕事を体験します。受け入れ企業の業種はコンビニ、印刷会社、工務店、飲食店など多岐にわたります。桃山学園にいる小学校4年生以上の子どもはほぼ全員が体験しています。

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前川さん

―― 実習先企業はどのようにして選んでいるのですか?

前川 僕ら同友会のメンバーが毎月桃山学園に来て、子どもたちと学校生活や部活、勉強のことなどについて雑談する中で、興味のある仕事やジャンルを引き出して「そんなんに興味あるんやったら、こういう会社に行って仕事を体験してみいひんか?」というふうに投げかけます。子どもが「その会社で体験してみたい」と答えたらその会社の社長と面接してやれそうなら話を進める、という感じです。つまりちゃんと僕らが子ども一人ひとりと話して、適性を見て、本人の意思を尊重して、合いそうな会社を決めているんです。一つひとつが子どもによって全部違う、オリジナルな手作りの実習です。

中澤愛美さん(以下、中澤) まずは子どもと定期的に会って話して信頼関係を作ってから、その子に合ったオーダーメイドの適職探索をしています。施設にいる子は、施設でも学校でも常にそばにほかの子どもがいるから、1対1で向き合うのが重要なんです。これは実習先の会社を決める時も、働く時も重視しています。

きっかけは職員の一言

―― このような活動を行うことになった経緯は?

前川 14年前に私が経営している写真スタジオの下で、塾の先生が生徒を殺害するという痛ましい事件が起こりました。これでうちは潰れるかもしれんなと思ったのですが、お客さんが頑張って来てくれたおかげで何とか潰れなくてすみました。この一件で、社会に何か恩返しをせなあかんと思っていた時、たまたまテレビで児童養護施設の特集番組を観ました。うちは貸衣裳店と写真スタジオを経営してますので、この子らの七五三の写真を撮ってあげたら喜ぶかな、そのうれしかった記憶が負の連鎖を止める一助になればいいなと思いました。

それで10年ほど前に桃山学園に来てそういう話をしたら、ぜひお願いしますということで関わり始めたのが一番最初のきっかけです。それで桃山学園に行ってみたら、正月に家に帰れる子と帰れへん子がいたんです。帰れへん子は、迎えに来た親と一緒に帰っていく友達を、どんな顔で見送るんやろと想像したら、心臓を素手で直にぎゅーっと掴まれたみたいに胸が痛くなって、これは七五三だけではとても足りひん、もっと何かせなあかんなと強く思いました。

そういうことを当時の桃山学園の園長に話したら、「自己肯定感が低い子はここを出て就職してもほとんどすぐ辞める。1年もたない」と。これは何とかしなあかんと思っておりました。

そんなある日、桃山学園の職員の西山さんが「同友会に加盟している会社で、うちの子をアルバイトさせてくれないか」と相談してきました。それが自己肯定感の向上に繋がるかもしれへんから、ただのバイトじゃなくて就労体験にしようということになりました。これが就労体験の最初のきっかけです。

西山達二さん(以下、西山) 当時高校3年生の男の子が回転寿司のバイトをやっていたのですが、人間関係のトラブルから辞めて、週末はずっと施設でテレビゲームばっかりやるようになったんです。年長の子がずっとテレビゲームをやっていたら小さい子らはゲームができない。他にも同じように週末にどこにも行かずに施設内にいる子がいたので、この状況がなんとかならないかなぁと思っていたところ、前川さんが以前何かあったら力になるよと言ってくれていたのを思い出して、どこかこんなような内向きの子をサポートしてくれそうなバイト先はないですかねと相談しに行ったんです。そしたら前川さんは「それなら就労体験の実習にしよう」と。

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西山さん

前川 最初に相談に来たのが2月で、8月から実習をやろうと言うたんです。

西山 いや、それは早すぎる。準備が足りないって言ったんですが...。

前川 何言うてんねん、こんなもんは3ヶ月もあればできるできる! 言うて始めることにしたんです(笑)。

西山 バイトのお願いに行っただけなんだけど話がでかなってきたぞ、と(笑)。けど、まさかここまで大きくなるとは思わなかったです(笑)。

前川 でもその時話し合いに参加した高校生の男の子はバイト代が出ないんやったらやらないと結局不参加。でも4人の女子高生はおもろそうやしやってみたいと。それで、この4人が2012年の夏休みに就労体験実習に参加したのがすべての始まりです。彼女たちにとってもなにせ初めてのことなので、毎日疲れた顔して帰ってくるんですが、どこか顔が明るくて、明日も行くと言って毎日通い続けたり、最終日には実習を終わりたくないと泣いた子もおった。中には2日目ダウンしたり、遅刻したりしながらも実習をやり終えた子もいました。その様子を見て職員さんも手応えをつかんだようでした。

活動に対する思い

―― 皆さんはどんな思いでこの活動に取り組んでいるのですか?

前川 子どもが桃山学園などの児童養護施設を出て、自立して幸せな人生を送ってほしいということに尽きます。僕はこの活動を支援じゃなくて応援だと思ってるんですよ。言うたらマラソンと同じ。最初、スタートしたら競技場のトラックの中を何周か走りますよね。周りにはサポートしてくれる人がたくさんいる。これが桃山学園にいる状態。その後、選手が一般道に出ていくように、あの子ら18歳になったら施設から社会に飛び出していかなければならない。その後は支えてくれる人がいなくなると思ってるけど、マラソンと同じように、同友会のおっちゃん・おばちゃんらは沿道で旗振って応援したり、給水ポイントでは水渡すで、という感じです。給水ポイントも二十歳超えたら水がビールに変わったりしてね。これは施設を出た子たちを励ます意味で、子どもたちと同友会の会員とが年2回集まって食事会を開いているんです。もちろん、未成年者はジュースですが。これがめちゃくちゃ盛り上がるんです(笑)。だからむしろ施設を出た後のつながりを絶たないことが大事だと思ってます。

中澤 私は幼少期に施設にこそ入れられなかったのですが、社会的支援の手が届かない極貧の中で育ちました。小学生時代は母親がいなかったので、ごはんも自分で作って食べたり、汚い格好で学校に行っていたのでいじめられていました。そういう体験をしているので、子どもたちのつらさや優しい気持ちをかけてもらえた時のうれしさなどが身に染みてわかっています。だからこそ、上から目線で頑張れよと言うのではなく、子どもに寄り添って抱きしめるとか、働くことの楽しさや喜びを知ってほしいと思っています。あとは、やっぱり子どもらにとってはいろんな人に会うのが大事やと思うんです。施設にいる子のほとんどは親の働く背中を見ておらず、働くということがイメージできひんと思うので、小さい頃から大人の働く姿を間近で見ることで、働くということに慣れてほしいという思いもあります。

そして、私のような小さい者でも子どもたちが自立するために少しでも役に立ちたいという思いもあります。仕事としてデザインを教わりたいという子をちゃんと受け入れられるように、それまで仕事は自宅でやってたのですが、事務所を借りたんです。そういう子らと一緒に私自身も成長できればいいなと。

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中澤さん

西山 僕は、子どもらには実習を通じていろんな人に関わってもらって、支えてもらって、大きくなっていってもらいたいってことですかね。子どもも外の世界に出て揉まれた方が力がつくだろうしね。

―― 印象に残っている子は?

前川 パティシエになりたいというので、同友会の会員のお菓子を作る会社を紹介して就職した子がいました。私らも安心したんですが、人間関係でつまづいて結局辞めてしまいました。これがきっかけになって、就職後の方が大事やなと痛感して、それ以降はアフターケアの方に力を入れるようになったんです。

受け入れ会社は子どもの成長の瞬間に立ち会える

全員にメリットがある

―― 就労体験実習のメリットは? 

前川 子どもたちにとっては、仕事の経験ができることはほんのちょっとで、仕事先の社長や社員らと親しくなれることがうれしいようです。やはり児童養護施設で暮らしていると、関わる人が限定されるので、外の世界に出て普段接しないような人と交流できるのが楽しいのでしょうね。それと、実習先の会社の人に父親や母親の面影を重ねることもあるのではないでしょうか。中澤さんの事務所は台所もあるし、会社に実習に来た子に手作りの料理を食べさせたりしてますよね。中澤さんのことをお母ちゃんのように思ってる子もいるでしょうね。

中澤 実習の最終日には好きなものを作ってあげてました。実習を通して優しい言葉をかけもらったことがすごく印象に残ってて、それで頑張れるという子もいるんです。

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中澤さんのデザイン事務所で就労体験した児童が実際に作った作品

前川 この活動の一番おもしろいのは、実習を経験した子は、本番の高校入試や就職の面接でそんなに緊張しなかったと言うこと。毎月社長と喋ったり、仕事をすることで、大人に対して動じず、ビビらなくなるんですわ(笑)。あとは、仕事をすることでその会社の戦力になっているということを実感して、プロ意識が芽生えて、顔つきが全く変わってくる子もいます。

中澤 みんなしっかりしてきたし、働くということに対する意識が高まってきましたよね。あとは仕事観が変わることも大きいと思います。実習をする前は、「やりたいことを仕事にせなあかんけど見つからへん、早く探さなきゃ」というプレッシャーを感じていたけれど、それほど好きな仕事やなくても実習先の会社の人がいい人やったから楽しかった。そういう体験を通して、必ずしも好きなことを仕事にせんでもやっていけるんやという意識の変化も大きなメリットかなと。

前川 そうそう。僕も自分の実体験と合わせて、よう子どもらにこう話すんですよ。「自分が一番やりたい仕事に就いて生きていける人なんてほんの一握りや。ほとんどの人はそうじゃないけれど、生活をするために始めた仕事がやってるうちにおもしろくなって、その道のプロになるという人も多い。だから自分が就きたい仕事に就けなかったからといって自分はダメな人間だなんて思う必要なんてまったくない」って。

中澤 子どもらは逆にやっていくうちに、実はこんなんやりたいと思ってたけどちょっと違うなというのもわかってくるんです。

前川 そういう意味では非適職発見でもあるんですよね。若いうちに、これはちゃうな、向いてないなというのがわかれば、将来の就職先とのマッチングミスを防げます。それは実際に働いてみないとわからないわけです。それをせずにただ、ここは有名な会社やからええぞと紹介して就職してもすぐ辞めるということになる。だからこの就労体験実習は子どもを就職させるためのものではないんですよ。実際に同友会の会員企業にそのまま就職している子もけっこういますが、基本かつ最大の目的は就職斡旋ではなく、自分に向いている仕事を探すという適職探索と、応援する人がたくさんいるから安心して社会に飛び出せよ、なんか困ったことがあったらすぐ同友会のおっちゃんらに連絡せえよというメッセージを子どもらに伝えることなんです。

中澤 あと、受け入れ先の会社にとってもメリットはあるんですよ。子どもに来てもらってよかったと言う社長や、次、子どもはいつ来るんですかって聞いてくる社員も多いんです。

前川 僕らにとっては、子どもらが成長する姿を間近で見られることはうれしいんです。実習の後の報告会で子どもがすごくいいことを言ったり、決意表明するんですが、そんな場に立ち会える機会ってなかなかないからこれほどうれしいことはないですわ。

西山 僕ら職員にとってもメリットはあります。職員も実習の付き添いからうれしそうに帰ってくるんですよ。こんな仕事あるんや、おもしろかった、楽しかったって。そんな体験は職員の視野を広げることになるし、何より大人が楽しそうに付き添いしてたら子どもにとってもいいじゃないですか。それが最大のメリットであり、やってよかったと思う点の一つですね。

最初はまさかこんなことになるとは思っていなかったのですが、子どもらにいろんなつながりが生まれて、いろんなことを経験できたのがよかったです。やっぱり僕ら職員だけでは子どもたちに多種多様な経験や考え方を与えられません。でも同友会にはいっぱい、いい意味でわけのわからんいろんな人がいるので、子どもらにとってはそういう個性的な人らと触れ合うことはすごくいい経験になります。だから「やってよかったなあ」の一言では語り尽くせないくらい、同友会の方々には感謝してます。

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施設職員は新しい気付きや驚きで視野が広がる

活動のやりがい

―― 就労体験実習のやりがいは?

前川 実習を終えた子どもたちの顔が明るくなってきたり、卒園後社会人になった子が堂々と生きている姿を見るのが一番のやりがいですね。

中澤 私も前川さんと同じで、子どもたちの変化を見られることですね。一番最初に関わり始めた頃は、まともに口を聞いてくれないどころか、完全にそっぽを向いていた子が、話をしていくうちに徐々にこっちを向いてくれるようになり、最後には正面を向いて話してくれる。素直になったり、最初とは考えられへんほど雰囲気から何からびっくりするくらい変わるんです。それで「こんな会社に行って働いてみたい」と言うようになるのが醍醐味ですね。

―― なぜそこまで変わるのでしょうか?

前川 毎月裏切らずに子どもに会いに来ることを続けてきたからでしょうね。信頼関係は少しずつ時間をかけて作るしかないんですよ。

西山 子どもらは実習先から帰ってきたら嬉しそうに経験したことを話すし、成長するし、本当に得るものは大きいです。

前川 小4くらいの子が施設にいる時はダラダラしてるのに、実習先でちゃんと挨拶したり働いている姿を見て涙ぐんでる職員さんもいますよね。

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活動を全国に広げたい

―― 今後の展望は?

前川 この活動を可能な限り長く続けていきたいです。そして、全国に広げたいと思っています。そのためには全国の児童養護施設は子どもを自分たちだけで育て上げようとするんじゃなくて、地域の同友会をぜひ活用していただきたいですね。私は同友会の先達会員から「利用して利用される関係では憎悪が生まれる。頼り、頼られる関係には信頼が生まれる」という教えを受けております。だから頼ってほしいし、頼られたら応えるし、そうなると信頼が生まれてくるから、各都道府県の同友会も社会的養護の施設とぜひ関係を結んでほしいと言いたいです。

子どもらにどう接していいかわからないという同友会も多いのですが、まずは児童養護施設に連絡して子どもらと話をする機会を作って、それを重ねて信頼関係を作って、就労体験実習に入ればいいんです。そしたら次に何をしたらええか、何をしたらダメかは、子どもらが全部教えてくれるんですよ。だから安心して一歩を踏み出してほしい。我々のやり方がすべて正しいとは思わないので、その地域独特の交流をしたらきっとおもしろく、楽しくなると思いますよ。

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2019年4月に行われた就労体験報告会に参加した京都中小企業家同友会の皆さん

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フェアスタートでは賛助会員を募集中です。賛助会員になると『エール』が送付されるなど、いろいろな特典があります。児童養護施設等出身の若者を支援したいというお気持ちのある方はぜひよろしくお願いします。
●NPO法人フェアスタートサポート→http://fair-start.co.jp/

(今回も原稿・撮影料はフェアスタートサポートや取材させていただいた若者に謝礼として進呈しました)




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