一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2010
08/13
日記

忘れられない夏の思い出[中編]

毎年、お盆が来れば思い出す。
今から約20年前に起こったあの悲しい出来事を──。
前編から続く)

もうこうなっては手の施しようがない。なんせ火はバイクから出ているのだ。最初にカチカチ山状態になっていることを教えてくれたRSR250のあんちゃんは路肩に止めてからも何かと手伝ってくれたが、もうこれ以上の迷惑はかけられないと思い、「もう行っちゃっていいすよ。ありがとうございました」と告げ、走り去るのを見送ってから今後の対策を考えた。

まずやらねばならないことはこのバイクの火を消すことだ。

といっても消火器など持っているはずもない。トラックなら消火器を積んでるかもしれないと思い、来るトラックに手を振りなんとか止めようとするも、どれもスルー。スピードダウンする気配すら見せない。このとき、シカトされるヒッチハイカーの気持ちがわかったような気がした。

そうこうしている間にも炎はどんどん勢いを増していく。

トラックがダメなら自分で消防を呼ぶしかない。もちろん当時は携帯電話などもってるはずもないので、高速に設置された電話ボックスを目指してとぼとぼと路肩を歩き始めた。

すると、数分後、俺のそばに1台の乗用車が止まった。助手席に座っていたおばあさん「どうしたの?」と声をかけてくれたので、カクカクシカジカで消防車を呼ぶために電話ボックスまで歩いているんですと答えると、「それは大変。乗って行きなさい」と電話ボックスまで乗っけてくれた。ガチで涙が出そうになった。

電話ボックスにつき、老夫婦に礼を述べて降りたのち、高速道路交通警察隊に電話し事情を告げ、またバイクに戻った。

えらいことになっていた。

最初チャンバーから出ているだけだった炎は、いまやバイク全体を包み込むように燃え盛り、炎は数メートルの高さまで上がっていた。

まさにひとりキャンプファイヤー状態。

やはり派手に燃えているバイクはドライバーの目を引くのか、ファイヤーバイクの近くに差し掛かるとスピードダウン、つうかほぼ止まった状態になってじっくり見物していく。午前4時頃だというのにプチ渋滞。中には追突しそうになる車も。ちっ、惜しいと心の中で毒づいている間にも炎は激しさを増す。

そのときだった。

突然ボンッ!という轟音と共にガソリンタンクが吹っ飛び、空中高く舞い上がった。そして中に入っていたガソリンがアスファルトに撒き散らされると同時に引火。シュババババッ!という音とともにアスファルトに炎の輪が描かれた。

業火に焼かれながら徐々にバイクの形をなくしてゆく俺の愛機と、軽く火の海と化す東名高速。

今ならバイク炎上なう!( つД`) とかってツイッターで写メつきでつぶやいたり、Ustで中継できたりするんだろうが、当時はそんなものもあるはずもなく、地獄絵図と化していく光景を眺めながら、いろんなことが頭をめぐった。

ああ、俺が初めて買ったバイク、たくさんの思い出が詰まった愛するNS400が...

これからどうしよう。無理矢理愛媛に帰るか、自分ちに帰って仕切り直すか...

つか消防と警察はまだか...

ここまでオオゴトになったから費用ってけっこうかかるんだろうな...


などど思いを巡らしていたところ、ようやくサイレンの音が聞こえてきた。

消火活動に入る頃には火の勢いも弱り、簡単に火は消えた。後には文字通り鉄クズだけが残った。

その鉄くずをクレーン付のレッカー車が荷台に積み上げた。

その間に警察から簡単な取調べを受けた。最後に「レッカー代はもちろん有料だからそのつもりで。それとアスファルトもかなり焼けてるから、後でその分の請求書も行くかもね」と言われた。

「わかりました」と答えるだけで精一杯だった。

(終わらせるつもりが長くなったので完結編に続く)

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