一筆入魂

フリーライター/編集者 山下久猛のブログ

2010
01/25
仕事人インタビュー

[ツイッターでも大反響!] サトシンさんインタビュー その2

ツイッターでも大反響なサトシンさんインタビューその2をお届けします。
(その1から続く)


絵本作家になったきっかけ

_0001621.jpgサトシン そんなわけでしばらく新潟でフリーのコピーライターとして活動していたんですが、2006年、43歳のときに転機が訪れました。友達のコピーライターが京都に引っ越すことになったのでお別れ会をしたんですね。

 その席で飲んでるときに、彼が「引っ越す前にサトシンさんと一緒に仕事がしたかった」と言い出したので、「具体的に考えてることあるの?」と。そのとき彼はちょうど子供を授かったばっかりの頃だったんですね。それまで自分は子供に興味がないと思ってたけど、生まれてみたらかわいいし、関わってみると発見もたくさんある。でも世の中のお父さんは幼い頃の子供に関わることができる人って圧倒的に少ない。それはもったいないと思うので、父親が子供に関わることの楽しさを提言するようなムックを作りたい。それを一緒にやんないか、みたいなことを言われたんですよ。

 その話を聞いたときに、当時でも父親の子育て的なムックっていっぱいあるから、改めて僕らがやるまでもない、それは意味ないよという話をしたんですよね。酔っ払って話をしている流れの中で、どうせやるなら同じような考え方で例えば絵本にするってのはどうなのよ? と。

 絵本って割と子供から大人まで読めるし、あっという間に読み終えるんだけど、伝えたい思いをぎゅっと凝縮できるじゃないですか。そういう絵本は自分でも買えるし、知人が結婚したときとか子供が生まれたときにプレゼントとしてあげるとか、間口も広がったりする。なので、そういう思いがあるのなら子育て父さん的な絵本を作るほうがいいんじゃないの? って話をしたら、彼も「それ、いいですね」と。じゃあ一緒に考えようかという話になって、ヨーイドン!で作り始めてみた。

 で、自分も絵本的なものを考え始めてみたら、子育て父さんの企画はおいといて、絵本を作ること自体がおもしろくなっちゃったんですよ。あ、このやり方オレに向いてるわと思った。絵本って要はテキストがあって絵がついてというだけのシンプルな構成ですよね。言ってみれば、ルールはそれだけ。でも、そのシンプルな中にいろんなことができるということを知って、こりゃ面白いわ!と思ったんですね。

 でも、ちょっと考えても、絵本の世界ってやりたい人はいっぱいいるんだろうし、競争も激しそうだし、とはいえ爆発的に売れまくってるかといえばそうでもなさそうな世界だろうし、今からやり始めても形になるかわかんないし。本業だったコピーライターは順調でそれなりの評価ももらってて、仕事も忙しかったし...ねえ。

「明日から仕事やらない」と宣言

サトシン でも絵本がやりたいと思ったんです。やるからには、コピーライターの仕事は時間もかかるし、広告やりながらの片手間では絶対成果は上がらないだろうと感じていたんです。そしてこれが一番強かった思いなんですが、僕も気が付くと当時40歳越えたいいオッサンで、もしかしたら生まれてから今までよりも、今から死ぬまでの期間の方が短いかもと。そう気づいたら、やりたいことをやっとかないとたまんないなと思った。それで、極端なんですけど、そう思った翌日に今まで付き合ってきた広告代理店とかデザイナーとかに「明日から仕事やりません」って宣言をしたんですよ。新潟に帰ってきたときもそうだけど、大事なところのジャッジが極端だなあ、オレ。

 ──うわー。マジっすか! ほんと極端っすね!

サトシン 自分なりに退路を断ったつもりだったんですよ。そうしないと自分にGがかからないかな、と。で、ちょっと肚を決めてその日は何にもしないで一日寝て、翌日朝起きたら机に向かってパソコン開いて絵本の企画を作り始めたんです。

──ほんと、すごいですねえ。

サトシン それが3年前(2006年)。レベルはどうあれ、山下さんだってフリーでやられてて、そういったことってあるでしょ? ここまで極端じゃないとしても。

──いや、僕みたいな小心者には、いきなり「もう仕事やらないから依頼してくんな」とかってクライアントにとても言えませんよ〜。

サトシン だってそうでもしないと、自分の決意もグラつきそうなんだもん。

──でも怖くないっすか?

サトシン 怖いけど、そのとき、それだけ絵本でいろいろ試してみたいと思っちゃったんですよね。逆に、そう思いながら前に進まない自分の方が怖いと思った。

──コピーライターをやりつつ、絵本をやるっていう選択肢はなかったんですか?

_0001623.jpgサトシン 広告の仕事をしていた頃の僕は、単なるコピーライターというよりは、川上の方からある商品を売ったり、PRしていく仕組みそのものを考えてキャンペーンを練ったりとかしてたんですね。当然時間もかかるし、寝る時間もなかなかないみたいな生活だったんですよ。そうするとその合間に絵本の仕事っていうのは難しいから、まずは時間を作るところから始めないといけない、そう思ったら広告の仕事と並行は絶対無理だと。うん、無理無理! なので、自分としては、選択肢はなかったんですよね。

──広告の仕事量を減らして、とかはダメだったんですか?

サトシン ダメ! あの〜なんだろう...そういう、うまくバランスを取って、とか好きじゃないですよね。他人はともかく、自分のやり方としては。何かをやろうと思ったら全力でやらないとダメで、中途半端はできない性分なんですよ。テキトーにやってたら、どこまでもテキトーじゃん、そんなんでテンション上げられっか! みたいな。

──なるほど〜。オール・オア・ナッシング的な性分なんですね。

サトシン それともうひとつ、広告の仕事そのものに対する疑問みたいなものもあって。ずっと広告もそれなりに面白いと思ってやってたんですが、その面白さが本当に自分の好きなことを表現する、自分の考えてる絵本のような世界とは違ったんだな、と。

 そもそもその前から、広告業界では制作のことをクリエイティブって言うけれど、自分はそれをもってクリエイティブって称するのはちょっと恥ずかしいな、という思いがあったんです。

──あ〜わかります。

サトシン なんかこう、表現物を作ってるのは確かだし、そこで技術を提供してるのも間違いないんだけど、それって自分の内なるものをそのまま出してやってる、いわゆる本物の「表現」とは違う感じなんですよ。企業をチャーミングに見せるためとか商品を消費者に買ってもらうための表現だから。それって、何もないところから創り出していくということではないでしょう。今思うと、パズルを解くおもしろさみたいな感じだったのかな。

 でも僕が思ってた真のクリエイティブってそうじゃなくて、自分が生きてきた過程を踏まえながら、「これって楽しいでしょ?」とか「こういうのってどうなの?」的な、「オレの価値観ってこうじゃん!」みたいなことをどーんと表現の形で出しながら、いろんな人にぶつけながら、返ってきた反響を実感することだったんですよね。それ、気が付いたら広告の世界じゃなかなかやりきれないわ、と思って。そういう気持ちもあって、ほんとにやりたいことをやらなきゃいけないと思ったんですよ。

──なるほど〜。

奥さんには内緒で・・・

サトシン そんな経緯で広告の仕事を辞めて絵本一筋で動き始めたんですが、ちょっとまずかったのが、これまたカミサンにこういう話を一切しなかったんですよ。

■その3に続く

●その1はこちら

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 新潟にIターンするときと同じく、またもや奥さんに何の相談なしに人生、いや、家族にとっても一大事なことを勝手に決めちゃったサトシンさん。当然そのまますんなり事が運ぶわけもなく......。

 次回のインタビューその3では、自分のやりたいことをやるために、どーやって奥さんを丸め込んだのか、その説得術を赤裸々に語っていただきます。世のお父さん方は必見ですぞ!

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●サトシンさんプロフィール
サトシン(本名:佐藤伸)1962年新潟県出身。三児の父親。元コピーライター。
広告としての受賞歴:「日本新聞協会 新聞社企画部門 新聞広告賞(新潟日報社)」「新潟広告賞グランプリ(第四銀行)」「新潟広告賞大賞(北陸国道協議会)」ほか。
2006年12月、すずき出版より「おったまげたと ごさくどん」(サトシン/作 たごもりのりこ/絵)を出版し、以降、本格的に作家活動に突入。
2007年4月、「おてて絵本普及協会」設立。新しい親子遊び「おてて絵本」の普及とこどもたちの「おてて絵本」ストーリーの採取・紹介に力を入れている。
2009年12月に出版した「うんこ!」がただいま絶好調増刷中。

●公式サイト→絵本作家サトシンHP
●サトシンさんが立ち上げたおてて絵本普及協会



●絶賛増刷中の


コメント(2)

こんにちは!

ツイッターから来ました。私も元々はフリーランスライターで、特にインタビューが得意というか大好きだったので、タイトルの「魂のインタビュー屋」にはグッときました。

サトシンさんのこともツイッターでの情報程度しか知らなかったのですが、へー、なるほどーとわくわくしながら読ませていただきました。私もサトシンさんと同い年で会社を興したのが一昨年ですから、「残りの人生・・・」のあたりの気持ち、よくわかります。その3も楽しみにしています。

あとで、「魂の仕事人」のバックナンバーもじっくり読ませていただきますね。

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